●アモン

本作主人公。自殺志願者のような戦い方をすることから、“死にたがり(ニアデス)のアモン”の異名を持つ魔族の青年。二年前まで倫敦警視庁スコットランドヤードに勤めていたが、とある事件を切っ掛けに警官の職を解かれ、現在は保護観察を受けながらバーテンとして暮らしている。魔族であれば誰でも持っているはずの翼を持たない“できそこない”であり、本人もその事に対して強いコンプレックスを抱いている。

幼い頃から、彼の周囲では異常とも思えるほどの死者が出ており、周囲からは気味悪がられている。母親、恋人、そして多数の仲間――余りにも多くの死に直面した事が原因で、「彼らを殺して、自分だけが生き残った」というトラウマを抱えており、よく悪夢に苛まれている。そのような中で、倫敦に侵入した謎の三人組による大量殺戮事件が発生し、彼の養父である人狼も犠牲となる。今回も彼は「またか。また俺のせいか」と愕然とするのだが……。

かつての上司だった警部の手配によってクラウゼルという不思議な少女と出会い、徐々に閉ざしていた心に変化が訪れる。謎の三人組によって多くの魔物が狩られ続ける中、クラウゼルと共に事件の渦中へと身を投じることになった彼に訪れた“変化”とは、果たして――。

川上氏の作品に登場する男性主人公にしては、かなり珍しく(?)常識人の部類に入るキャラクター。但し、ヒロインを剥く事に関しては、他の連中と違いは無かった。

 

「すまないな。俺はまだ死んでいない」

 

 ●クラウゼル

本編ヒロイン。倫敦警視庁であるスコットランドヤードに事務方として勤めている少女。生まれた時から視力が機能しておらず、そのまぶたは常に閉じられているが、性格は明るく、女性らしい淑やかさと快活さを一身に備えている。事件の容疑者と疑われたアモンと署内で出会い、以後、彼の保護観察を兼ねて身の回りの世話をする。

非常に世話好きで、頑なな態度を取るアモンに対しても、持ち前の快活さで距離をどんどんと縮めていく。更には偶然出会ったモイラとの間に友情を成立させてしまうなど、負の感情に支配されたはずの人間ほど彼女に強く引かれる傾向を見せる。或いは、彼女の出自を考えればそれは必然だったのかも知れない。遠い昔から、“彼女”たちはそうした心の隙間を持つ人間達の話し相手をしてきたのだから……。

川上氏の作品群にとって決して欠かすことの出来ない『ある種族』の初代登場キャラクターであり、全ての“彼女たち”の祖とも云える存在。「私共の、一番上の“お姉さん”に当たる方だと判断出来ます――以上」

 

「昔、姉が教えてくれたんです。“物”になってはいけないって」

 

 ●フィリアス

愛称はフィル。スコットランドヤードに所属する婦警で、『警部』と呼ばれる人物の秘書を勤めている。種族は猫人で、感情が高ぶると本人の意思に関わらず猫に変身してしまう体質の持ち主。娼婦街の街頭孤児だった過去を持ち、アモンとは幼い頃からの顔なじみの関係。

仕事をサボる警部を叱咤激励しつつ、様々な仕事をこなしており、場合によっては警部と共に現場に入ることもある。戦闘時は、その種族特性を活かした俊敏な行動を得意とする。過去を引きずるアモンを気遣いつつも、自分から決して距離を詰めようとはしないなど、その内心は思った以上に複雑なのかもしれない。

 

「騒動? そりゃいつもアンタが原因じゃない」

 

 ●警部

フィルの上司。本名は知られておらず、秘書であるフィルを始め、皆から「警部」と役職で呼ばれている。イタリア製のスリーピースを着こなす伊達男だが、鏡に映った自分を「まさに天上の男」と評するなど、性格に問題があると周囲に思わせる行動が絶えない。事務処理など細かい仕事が嫌いらしく、よく書類を溜め込んでは、その度にフィルからどやされている。

アモンのことを気にかけているらしく、監視役にクラウゼルを付けたのも彼の采配によるものである。フィルですら知らないアモンの“種族”も把握しているフシがあるなど、どうやら単なる無能者ではないようなのだが……。

『香港』の彼の件とか、『伯林』のアレの件とか、どーなんですかね、警部。

 

「世の中難しくてな」

 

 ●リックラント・ヴァレス

長身痩躯の剣士。倫敦に現れた三人組のリーダー格。魔物を狩ることに特化した戦士“幻崩の衛士(ハウンド)”の一人だが、そのハウンドの中でも飛び抜けた実力を有しているらしく、分かっているだけでも百体以上の魔物を殺戮している。得物は長剣だが、格闘術にも精通しており、悪魔が使うとされる契約術“駕・契約(オーバー・コントラクト)”をも使いこなすなど、歴戦の魔物達ですら太刀打ち出来ないほどの力を持った“魔人”。

モイラ、ラルフと共に倫敦に侵入すると、たった一晩で数十体の魔物を殺害し、倫敦中を恐怖に陥れた。その常軌を逸した行為によって、“ある目的”を叶えようとしており、 彼の身を案じるモイラの言葉にも耳を貸そうとはしない。“駕・契約術”を使う反動として感情を殆ど失っており、更には術の代償として死後の地獄行きが決定している。それほどに己の全てを捨ててまで、彼が叶えたい望みとは――。

ヴァレスという名は偽名であり、本名はライクル・ボルドゾーン。かつて独逸を救った“ある人物”と行動を共にした騎師の末裔の一人であり、本来は“欧州五行師”の筆頭たるボルドゾーン家の宗主であった人物。彼がその地位を捨てたことにより、ボルドゾーン家を頂点としていた欧州五行師の勢力図は激変を余儀なくされており、その余波は後の歴史においても続いてゆく事になる。

 

「お前に私が倒せるか?」

 

 ●モイラ・テルメッツ

倫敦に侵入した三人組の紅一点。ヴァレスを主としており、彼に付き従っている。詠唱式魔術の使い手であり、“獲物”を逃さないように結界を張るなど、主にサポートを担当している。強力な術者であり、その結界は高ランクの魔物であっても決して破ることが出来ないとラルフに評されるほどの腕前の持ち主。

ヴァレス同様、モイラという名は偽名であり、本名は別にある。元々は彼の屋敷に仕えていた小間使いであり、魔術や戦闘といった荒事とは本来縁の遠いはずの女性であった。しかし、ヴァレスがその名と身分を捨てる切っ掛けとなった“ある事件”の現場に居合わせており、それ以来、彼に対し自身の身を投げ打つようにして仕えている。

倫敦に侵入した後も、作戦の下見中に行き会ったバザーで買物を楽しむなど、本来は慎ましくも明るい性格の持ち主。その場で偶然に出会ったクラウゼルと意気投合し、互いの“男”に対する批評談義に花を咲かせるのだが……。後に刊行された『機甲都市 伯林』に登場した五大頂のリーリエは彼女の姉に当たる人物である。

「私、あなたが羨ましいわ」

 

 ●ラルフ・グルト

ヴァレス、モイラと共に倫敦に侵入した三人組の一人。散弾銃や長銃など銃器を駆使する“幻崩の衛士”。人ならざる異族に対して強い敵愾心を抱いており、特に天使を始めとする天界の眷属に対しては異常なほどの殺意を抱いている。

ヴァレスの目的に賛同し協力関係を結んでいるが、互いの気質の違いから両者の歯車は微妙にかみ合っていない。しかし、モイラに関しては真剣にその身を案じており、事あるごとに彼女を気にかける言動をする。それは、彼の“過去”ゆえか、それとも――。

かつては信仰心の厚い牧師だったが、過去に起こった事件から信仰を見失い、神を激しく憎んでいる。彼がヴァリスと行動を共にしたのも、人に救いをもたらそうとしない神に対する反逆心に因るところが大きい。その執着心こそ、かつての彼の信仰の厚さを物語っているのだが……。硝煙と血煙の渦巻く戦場において、この青年が最後に見出したものとは、果たして――。

 

「この私に、救いを求めろ、と?」