●大基盤の時代

 

 

■前時代

西暦2005年――かつて数千年以上に渡り続いた“戦争”とその後の“戦後交渉”が決着を迎えた。そして、それによって人類社会には多くの異族――竜族、魔女、人狼、自動人形など―― が合流することになる(『終わりのクロニクル』)。

その後、多くの異世界の住人とその技術を取り込んだ人類は(おそらく多くの問題を抱えつつも)、ついには宇宙への進出を果たす。後の世界において『大先端の時代』と名付けられたこの時代において、人類は広大な外宇宙にまで勢力を伸ばし、その文明と繁栄は頂点を極めたとされる。 

個々人の能力が飛躍的に進化し、ついには人間と言う種そのものが「天上の神々」とまでなった時代――しかし、その人類の絶頂とも呼ぶべき時代もついには終焉を迎えることになった。「神」の位置にまで至った人類は 、しかし争いそのものを失くすことは出来なかったのだ。巨大な争いの果てに人類は手にした力の大部分を消失させてしまい、やがては宇宙での生活そのものを継続する事が困難となってしまう。

力を失った人々は、宇宙での暮らしを諦め、かつて自らが捨て去った“故郷”へと帰還した。遥か昔に地球と呼ばれた、人類発祥の惑星へと。しかし、そこで人々を待っていたのは、あまりにも過酷に変わり果てた母星の環境だった――

 

 

■黎明の始まり

そもそも、人間が宇宙に進出したのは、長年の環境破壊により、地球が生存に適さない土地となったからだった。それにより宇宙へと旅立つことになった人類は、しかし地球を離れる際に一つの仕掛けを施しておいた。それこそが『環境神群』と呼ばれる一種の自立型惑星修復装置であった。地球を離れた人類に代わり、荒廃した地球の環境を修復・発展させ、かつてと同じような自然豊かな大地へと甦らせる――それが残された『環境神群』にインプットされた命令であり彼らの役割であった。しかし――。

傷つき、疲れ果てながら帰還した人類を待っていたのは、『環境神群』によって余りにも過剰に“修復”されていた地球の姿だった。森の樹々は天を貫くほどに成長し、その合間を異形の超大型生物が闊歩する。谷には全てを吹き飛ばすほどの大風が吹き荒び、砂漠は焦熱地獄となって全てを焼きつくそうとする。そこは既に、人間が住むには、余りも過酷な「巨きなもの達の世界」へと変貌を遂げていた。

最終的に人類に残されていたのは、『神州』という小さな島国のみであった。はるかな過去において“日本”と呼ばれていたその土地は、『環境神群』の置かれた本拠地であり、それ故にか彼らの“修復”も緩やかだったからである。かろうじて人間が生きていける土地と判明した『神州』への定住は、しかし、すぐさま大きな別の問題へと発展してしまう。

狭い『神州』の中では、帰還した全ての人類を住まわせるほどの土地を確保することは不可能だった。地球に残された唯一の「住める土地」を巡り、人類はまたしても争いを繰り返してしまう。外宇宙時代の兵器や術式が使用されたその領土戦争により、わずか二週間で残っていた人口は更に半減――“人類の滅亡”が現実のものとなって人々の前に現れる。

 

 

■滅びへの抗い――『非衰退調律進行』

ただでさえ少なかった人口を、領土紛争と言う原始的な問題で半減させてしまった事実に、残された人類は慄き恐怖した。こんな状況下ですら、人間は戦争という愚行を停めることが出来ないのだ。おそらく、あと一回か二回、同じ事を繰り替えせば、間違いなく人類は滅ぶだろう。しかし、このままでは遠からず同じことが起きる。ならば、どのように対処すべきか? 人間の“主体性”などに任せていては、おそらく戦争は避けられない。――ならば、その“主体性”を別に委ねる選択をすべきではないか?

残った人類は話し合い、そして最終的に或る決定を下す。“聖譜”の作成と、それに基づく“歴史再現”の開始である。

争いを止めることの出来ない人類を、再び繁栄のレールに乗せるにはどのようにすればいいのか?  目前に迫った滅びは勿論、それ以降も確実に発生するであろう数々の問題――それらに子々孫々に到るまで適切に対応し、皆を生き延びさせる為にどのようにすればいいのだろうか?  この困難極まる命題に対し生き残った人々は集い、話し合い、そして一つの決断を下す。それこそが“歴史再現”と呼ばれる、全人類を挙げての過去の歴史の繰り返し作業の始まりであった。

「かつて人類は、一度は滅びることなく宇宙へと昇り、そして自らをして神と呼ぶほどの繁栄を謳歌した。 ならば、繰り返せばいい。かつての祖先の歴史――その全てを同じにように繰り返せば、 滅びることなくもう一度、天上に昇ることが出来る」

誰かがたどり着いたゴールに、別の人間が再び到達するために最も確実で安全な方法とは何か? ――その答えは決まっている。ゴールに着いた人間が使った道筋を、そっくりそのままなぞり切れば良い。同じルートを使えば、最終的に同じゴールに辿り着くのは当然なのだから。

かくして、全ての過去の歴史は一つの歴史書にまとめられた。いにしえの人々が天上に昇るまでの過去のあらゆる歴史を可能な限り記したとされる歴史書――これから開始される“歴史再現”の絶対的指針となるそれは “聖譜”と名付けられ、各国の代表者達に配布された。その内部に、或る一つの仕掛けを施されて――。

“聖譜”に施された仕掛け――それは行き過ぎた「先読み」の防止であった。これからの永きに渡る “歴史再現”において、余りに先のことが解ってしまっていては、各国の間に問題を生じさせかねない。 将来的に「勝ち組」になる国は増長し、逆に「負け組」になる国はそのモチベーションを大いに低下させる恐れがある。将来が判明しているがゆえに、歴史の流れを悪用する者も必ず現れるに違いない――故に、それらを防ぐ手立てを講じなくてはならなかった。 そうした問題を防ぐために“聖譜”に施された機能――それは常に「百年先の歴史までしか読む事が出来ない」というものであった。運命の流れを触媒して付与されたこの自動更新機能により、人々は百年から先の未来を自らの力で予見・考察しながら、自分達に課せられた“歴史再現”を行うことになったのである。

 

■『環境神群』との対話――『重奏世界』の作成

生き残った人類にとって目下の急務は、過剰に“修復”された環境の改善であった。 再び大地を人の住める場所にする為に、まずは一刻も早く『環境神群』による行き過ぎた過剰修復を停止させる必要がある。滅びを回避するために話し合った人類は、それぞれの陣営の中から残された選りすぐりの人材を掻き集め、野生化した 『環境神群』へとアクセスする事を目的とした部隊を編成する。地下六千キロ――この星の中心に設けられた位相空間に存在するとされる“そこ”にたどり着くために集められたのは、総勢七百名の人と人ならざる者達の選びに選び抜かれた決死の混成部隊だった。『七百人隊』と呼ばれる事になる彼らは、当時の人々が持ちうる最高の装備を与えられ(後の世において、それらは『神刀』や『神槍』と呼ばれるほどのレベルであった)、残された人々の期待を一身に背負い、果てしない地下への旅へと赴いた。

――彼らが辿った地下への旅路がいかなるものであったか、それらは既に歴史の闇の中に消え、詳細は不明である。しかし、ある地方に伝わる古い言い伝えの中には、このような一節が残されている――“七百の種とて、春に咲くのは三十もない”と。編成された七百名のうち、最終的に帰ってきたのはわずか三十余名――。多くの犠牲を払い、人類は『環境神群』とのアクセスに成功する。

『七百人隊』によって、野生化した『環境神群』との対話を成し遂げた人類は、環境の激化に歯止めを掛けると共に、もう一つの大きな前進を果たすことになる。それこそが『現世重奏計画』の立案と実行であった。 狭すぎる土地問題の解決と克服すべき過酷な外界への適応――その二つの望みを叶えるべく、人類は『環境神群』の力を借りることで『重奏神州』と呼ばれる“もう一つの神州”を位相空間へと立ち上げる。

『重奏神州』――そこは、別次元に作られコピーされた“もう一つの神州”であり、同時に元型となった『神州』とは大きく異なる特徴を備えていた。その内部は『神州』とは違い、更にその外側――即ち、本来多くの人々が定住するはずだった外界世界の厳しい環境があえて再現されていた。遥か遠い昔、“進撃の時代”に提唱された『神州世界対応論』をなぞらえる様にして……。そうして造られた『重奏神州』に移り住んだ人々は、その内部に再構成された外界の環境に身を置く事で、来るべき将来、本当の外界進出を行えるだけの技術や能力を養うことを目的としながら、自国に課せられた各々の“歴史再現”を進める事となった。

 


 

 

(次回更新に続く)