●ベレッタ・マクワイルド

本作主人公。米国『創雅都市S.F』の出身。曽祖父ジャック・マクワイルドが関わっていたとされる『アティゾール計画』の真相を探るため、1998年の現代から「1943年の巴里」に『留学』した女学生。実家は自動人形を製作する工房を営んでおり、自身も幼少から人形達の整備に関わっている。『重騎師(ナイトストライカー)』だった祖母の影響を強く受けており、自身も『重騎(ヘヴィ・バレル)』を駆ることに喜びを見出している。故郷『創雅都市S.F』では、自ら自警団に参加し『重騎』で妖物を狩るなどの経験も積んでおり、その才能と腕前は並みの『重騎師』程度では全く歯が立たない。明るく活動的な女性だが、悩みや問題を一人で抱え込む傾向も併せ持つ。

名付け親は父方の祖母であるが、その祖母本人も名前は「ベレッタ」であり、戸籍上は二人は全くの同姓同名である。『なぜ孫娘に自分と同じ名前を付けたのか? まるで自身の分身を作るように。これはエゴではないのか?』 ――ともすればこんな疑問を抱かせるこの行いの裏には、実際、祖母本人の強い願いが込められており、その事は孫であるベレッタ本人も(「色々言いたいことはある」らしいが)自覚している。

かつて仏蘭西国内で非公式に行われていたとされる『アティゾール計画』に深い関心を持っている。噂では「最強の『騎体』を開発するのが目的」と言われたこの計画は、現代では眉唾物の都市伝説となっているが、ロゼッタ本人は、幼少時に自身の曽祖父がこの計画に関わった資料を実家で発見しており、その存在を確信している。計画者の曾孫として、また一人の『重騎師』として、「最強の騎体」の正体を求め、祖母に託されたある手紙と共に、『閉鎖都市巴里』に『留学』した。

「1943年から1944年を繰り返す」都市――巴里。その中で彼女は多くの出会いを経験する。親友となる女子学生マレット、元『巴里守護騎士』の家系であり、恋人関係になるフィリップ、そして、不思議な雰囲気を持つ一人の少女――『自動人形』のロゼッタと。彼らとの出会いを通し、やがてベレッタは一つの決断を迫られる。巴里の「解放」か、それとも――。自身の介入よって徐々に狂い始めるその歴史において、果たして彼女の取った選択の結果は? そして、『アティゾール計画』が産み出した「最強の騎体」の正体とは?

「空を翔ける槍使い(ファランクス)」であり、「恋人が片腕義手の剣使い」「下巻で脱ぐ。そして『親不孝なこと』をする」等、川上世界におけるヒロイン資質を一身に兼ね備えている。それらが、後の『目印』となる日は来るのだろうか。 

 

「そういうものよ。ロゼッタ」

 

 ●ロゼッタ・バルロワ

ギヨーム・バルロワに仕える『自動人形(ザイン・フラウ)』の少女。本人曰く、「作られて二十五年、意識を持って十五年」とのこと。当初は殆ど感情を持っておらず、笑うことも泣くことも出来なかったが、ベレッタやその友人達との出会いにより多くの感情を学んでいく。人形としての型式は不明とされているが、英国の『アレイポーク式自動人形』と同様に、感情や知識の深化に併せて、その身体は文字通りの「人間」となっていく。最初は密やかに、やがては劇的に「人」へと進化していく自分の身体と様々な感情の機微。「人間」の要素が強まるにつれ、彼女自身も人間になりたいと強く願うが、理解できぬ感情や進化し切れない機械的部分に対し、半面、多くの葛藤を覚えることになる。『自動人形』と人間の狭間で揺れ動く彼女の姿は、同時に周囲の人間に「自動人形とは何か?」という命題を突きつけるのだが……。

本作品における「もう一人の主人公」であり、物語の根幹に大きく関わる存在。彼女がいかにして『言葉』と『感情』を自分のものにしていくか、それが本作のテーマの一つであり、大きな魅力の柱ともなっている。無意識のうちに作る得意料理が、ブルゴーニュ地方独特のものであり、それ自体が「ある秘密」に対する一つのヒントとなっているのだが……。

後の刊行された第六シリーズの『創雅都市S.F』において、彼女の「その後」についての記述があり、ギヨームからバルロワ家当主を継いだことが示されている。そして、そこには――。


「そういうものですよ、ね? ベレッタ様」

 

 ●フィリップ・ミゼール

ベレッタの恋人。独逸軍名誉将校にして、元『巴里守護騎師(シェバリエ・デ・パリ)』の家系であるミゼール家の嫡男。祖父は第一次世界大戦で勇名を馳せたジャン・ミゼール。元々はベレッタが留学したソルボンヌ大学の学生であり、同じ授業仲間であった。仏蘭西語の不慣れなベレッタにノートを貸したことが切っ掛けで、彼女と付き合うことになる。

口下手な面があり、他人の誤解を招きやすい。しかし、その人柄は実直そのものであり、一度決めたことに対しては決して引くことがない。大学を辞め、巴里を占拠した独逸軍に入隊したのも、その強い決心の表れである。かつての同級生から白い目で見られながらも、彼は決して弁明をせず、ひたすらに『職務』に励み続けた。巴里を開放するレジスタンス――彼らに情報と物資を流すスパイとしての役割を――。

騎師の末裔という名に恥じず、『重騎師』としての腕は相当なものであり、若干十一歳にして訓練の相手をしていた祖父の足を砕いて再起不能にしてしまうほどであった。以来、一度は『重騎』との縁を切っていた彼だったが、巴里を独逸軍から解放するため、再び『重騎師』として、ミゼール家の家宝である雄型重騎“剣将(エクスペール・デ・オレイル)”を駆り、巴里解放戦に参加する。自分の前に立ち塞がるであろう相手が、例え『最強』だと分かっていても……。ハインツ・ベルゲに対抗するために右腕を義腕化しており、重騎用剣型神形具『第三炎帝』を持って決戦に挑むその姿は、まさに『巴里守護騎師』そのものである。多分、ベッドの上でも不器用ながら紳士的だったんではないでしょうか。

 

 『来ないのかよ? 不感症のオッサン』

 

 ●マレット・ハルキュリア

ベレッタの同級生であり親友。二人とも同じアパートに住んでおり、部屋は隣同士。授業の代返や家事なども助け合う間柄であり、互いに遠慮なく軽口を叩き合うなど、その仲は非常に好い。異性関係を始め、女学生として青春を謳歌することに心血を注いでおり『泥酔女王』の異名を持つ。ユダヤの豪商の娘(ハーフ)であり、いずれは実家を手伝うために経済学部に在籍している。理由を隠して独逸軍将校となったフィリップと、彼に対して素直になれないベレッタとの間に立って橋渡し役を勤めるなど、はすっ葉な言動とは裏腹に情が厚く、多くの同級生からも慕われている。

以前は、自動人形が『人間』となることについて、場合によっては『不気味に思』うこともあったが、ロゼッタとの友人付き合いによって、やがては『自動人形』達の在り方と、その置かれた環境に対して非常に高い意識を持つようになった。

『連環』によって繰り返される「本来の歴史」では、豪商の家の娘として(税金を多く支払うことにより)、独逸占領下でも彼女の安全は確保されているはずであった。しかし、ベレッタの介入によって生じた歴史のズレにより、彼女もユダヤ人として「収容所行き」を決定されるなど、大きな影響を受けることになる。後の仏蘭西王立歴史学会OB。この物語の『序章』は、彼女の名による挿話によって始められる。

 「それは貴女が機械のままではないからでしょう?」

 

 ●ギヨーム・バルロワ

元『王宮守護騎士』の家系であるバルロワ家当主。ロゼッタの主人。独逸軍によって占領された巴里の解放を目指し活動するレジスタンス組織『巴里実働部隊自由派』のリーダーであり、普段は屋敷内にこもりつつ密かに作戦指揮をとっている。いかつい外見と尊大な口調の持ち主だが、多くの人間を統括するに相応しい義侠心と判断力を兼ね備えており、彼を知る幹部からの人望も厚い。かつてブルゴーニュ地方で秘密裏に行われていた『アティゾール計画』の全貌を知る唯一の生存者であり、本作における裏の水先案内人とも呼ぶべき存在。彼の書く『日記』と『手紙』によって多くの謎がひも解かれていくことになる。

 

 

 ●ハインツ・ベルゲ

独逸陸軍中佐。『最強』と称される『重騎師』。『機甲騎師(パンツァー・リッター)計画』――通称『P計画』の被験者である彼は、その全身の殆どを義体化しており、更には『感情喪失手術(サイコアウター)』によって、感情の一切と戦闘に関する事柄以外のほぼ全ての記憶を喪失している。専用機体である“赤獅子(ロート・レーヴェ)”を持ち、単独で一軍に匹敵する戦闘能力を誇る魔人。特にその反応速度は凄まじく、戦闘時は常人の百倍以上のスピードで物事を視認し動き回ることが可能。ゼロ距離から打ち込まれた砲弾を軽々と叩き斬り、音速の十倍で戦場を駆け抜ける彼の存在は、敵にとっては悪夢に等しい。まさしく『最強』の称号を得るに相応しい戦力の持ち主。

『感情喪失手術』によって彼は雑念に煩わされることなく、いかなる戦闘状況においても冷静沈着でいられる――理論上はそうであるし、彼自身も自分がそのような「機械となった人」であることに疑問を覚えていない。過去の個人的な記憶はなく、ただ粛々と軍務に従う存在、それが彼であった。……自身の荷物の中から、一枚の写真と花の付いた栞を見つけるまでは。

彼の封じた記憶の底にあるものは果たして何なのか? そもそも、彼はどうして『P計画』の被験者として、過去を捨てる決心をしたのか? 手元に残された一枚の写真に写る二人……彼の妻、そして娘の名前を思い出せる日は、果たして訪れるのか? その全ての答えは、レジスタンス蜂起戦の最終幕に語られる事になる。『パンツァー・リッター計画』と対を為す、“あの計画”の完成品との対決によって――。『最強』対『最強』。その決着の果てに、彼がたどり着いたものとは……。

「嘆きもいらぬ――」 

 

 ●ロゼ・フランシスカ

仏蘭西中南部のブルゴーニュに住む『風水師(コレクター)』。ベレッタの祖母の母親(つまりは母方の曾祖母)であるが、『連環』内の仏蘭西においては四十八歳であり、祖母の身を借りて『留学中』のベレッタにとっては母親に当たる(うーん、判り難い)。要するに「バアちゃんのかーちゃん」。ドラ●もんでいうところの「ご先祖様」的ポジションに立つ女性であり、物語のお約束にもれず、主人公ベレッタは自分の「正体」を誤魔化しながら、彼女の家に行くことになるのだが……。

周囲には隠しているが、『風水師』としての技術により、『連環』内で繰り返しの記憶を保持し続けている凄い人。ベレッタの「正体」や、その「留学」の目的についても少なからぬ勘付いており、巴里、そして仏蘭西の本当の解放を目指し密かに画策を続けている。