Prologue

 

1997年6月――半月後に返還を控えた香港。人と異族が入り乱れ、様々な色彩と価値観とがひしめくこの街に、二枚の大翼と四枚の小翼を持った少女がいた。

香港商店師団衛生課巡査――それが彼女の肩書きだった。喧騒の中で遺伝詞が暴れまわる。乱れた遺伝詞は形を取り、文字通りの暴獣となって猛威を振るう。他の者であれば、自分の非力さを嘆かざるを得ない場面――しかし、彼女は違う。

「よし、いける」


それは過信ではなく、純然たる事実だった。常人なら八万も扱えれば上等。三十万も操れば天才とも呼ばれる遺伝詞の詞階――ならば、百二十八万のそれを自在に統べる者を、人は何と呼べばいいのだろうか?

香港一の『風水師』。それが彼女の力を端的に表す称号だった。そして、その背中の翼は、彼女が匪天(ひてん)と呼ばれる人間と天使との間に生まれた存在であることを示している。

『私は風水だけは誰にも負けない自信がある。快い自信が』

香港――遺伝詞が色彩と喧騒を奏でるこの街で、彼女は今日も空を翔ける。いつか自身の『夢』が信じる日が来ることを願って。いつか“竜”を創れる日を願って。

 

 

 

 「……ヘ、ヘイゼル先生! これは一体なんでしょうか?」

 

 

 

 「あらあら。ヒオ、分かりませんか? これは今回のお話の紹介ですのよ」

 

 

 

 「え? これがそうなんですの? でも、これじゃあ紹介というよりは、

 海馬に電極をブッ刺した時の走馬灯みたいな感じですの!」

 

 

 「黙れ、小娘!」

 

 

 「ヒッ?! な、なんですの?! なんで、ヒオが怒鳴られますの?」

 

 

 

 「いいですか、ヒオ。氏の作品は要約が難しいのです。特殊な専門用語は多いし、

 登場人物も字名(アーバンネーム)を持っていたりで情報量が多いのです。

 そんな氏の作品のあらすじだけ書いても厨二病全開の黒歴史ノートみたいで

 訳が分かりませんの」

 

 

 「そ、それってストーリーを上手く要約できない管理人の不手際じゃ……」

 

 

 

 「ヒオ? それ以上言うと、その未発達なバストをバスト しますわよ」

 

 

 「そ、それはダメです! それじゃあ原川さんが泣いちゃいますの!」

 

 

 

 「それはハーブで何とかしなさい。それよりもヒオはこの『風水街都 - 香港』という

 お話が、どんなものか知っていますか? ちゃちゃっと答えなさいな」

 

 

 「え、ええと……せ、先生と同じ『風水師』の女の子が、香港を舞台に活躍しまくる

 ……みたいな――」

 

 

 「ヒオ? “同じ”ではありませんのよ? 私の『風水師』 としての力は世界イチィィィ!!! ですからね?」

 

 

 「ご、ごめんなさいですの! ヒオ、本当は何も知りませんの! 

 先生、教えてほしいですの! この『香港』って、どういうお話なんですの?」

 

 

 「ふふっ、それはですね。まあ一言で言うと『街で見かけた好みの女の子を、

 どうやってベッドの上でおねだりさせるか』というナンパの極意を記した本ですの。

 他にタイムトラベル的な要素とかもありますが、突き詰めて言えば『香港で美人の

 婦警さんを風水パワーでゲットするマニュアル本』ですかしらねえ」

 

 

 「お、大人の世界ですのっ!」